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そのうえを漂う、壊れた水道の蛇口からこぼれる水のような声。それは歌っているようにも、呟いているようにも、だれかに喋りかけているようにも聴こえる。 稀に、そこにわけのわからないドラムとかがダビングされることもある。意味もなく打たれるドラムは、ビートをなさず、音楽を装飾することもない。その音は、ただ気まぐれにかぶせられただけのように思える。 男は、テキサスのヒューストンのどこかに住んでいるらしい。1978年から30数枚のアルバムをリリースし、沈黙する。 どのアルバムを聴いても、内容にほとんど変わりはない。初めに言ったようなギターの音と声が、十数曲収録されている。 西洋音楽、歌に不可欠な和声というものが無く、アルバムを聴き終えても、どの曲がどれだったか、判別することは難しい。 ジャケットは例外なく一枚の写真。文字は入らない。それは、だれもいない家のポーチだったり、白い暖炉だったり、荒れたポートレイトだったりするが、どの写真も色褪せており、時代性や特定の文化的視点から切り離されている。 感情を丁寧に取り除いた音楽。静かに自閉していく歌たちに今夜も心が取り乱される。 男は自らJANDEKと名乗る。 映画になったダニエル・ジョンストンを陽とするならば、陰のアウトサイダー・フォーク・シンガーである。おそらく、彼の伝記映画ができることはないだろう。 ダニエルという男が愛情たっぷりのファンサイトを開いている。 2004年に突然、公衆の面前で再び歌い出す。 死ぬまでに、一度でいいから生で聴きたい歌い手だ。(曽我部)
by rose-records
| 2007-03-21 08:05
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